法事とは故人の冥福を祈るために行う仏教行事です。たとえば、四十九日や一回忌などといったものがそれに当てはまります。それでは仏教以外には法事に相当する行事はないのかといえば決してそんなことはありません。
特に、神道で行われる行事には法事によく似たものが存在しています。
しかし、似ているとはいってもあくまでも両者は別物であるため、相違点も多々あります。初めて体験する場合には戸惑うことも多いでしょう。
そこで、いざというときに困らないように、その行事に関する基礎知識やマナーなどについて解説をしていきます。
神道での法事はお祭り
法事や法要というのは仏教用語であり、神道ではそのような言葉は使われません。
神道において法事に相当するのは霊前祭や御霊祭などです。文字を見ても分かるように、神道では故人を弔う行事をお祭りと位置付けているわけです。
仏教における通夜も神道では通夜祭と呼称しています。
また、神式では他にも仏式と呼び名が異なるものが多くあります。
たとえば、故人の名を記したものを仏式では位牌と呼びますが、神式では霊璽または御霊代です。
それから、仏式では、仏の弟子になった証として故人には戒名が授けられます。
一方、神式では故人は守護霊になるとされるので戒名はありません。
その代わりに、故人を敬うために名前の後ろに男性は大人(ウシ)、女性は刀自とつけます。
さらに、仏式において僧侶が唱えるのはお経ですが、神式において神主が唱えるのは祝詞です。
その他にも、仏式では香典袋に「御佛前」と書くのが一般的なのに対して、神式では「御霊前」あるいは「御玉串料」と書くといった違いがあります。
霊前祭をつい法事と言ってしまうなど、神道の行事であるにもかかわらず、仏教用語を使ってしまうと恥をかくことになるので気をつけましょう。
神道における服喪の概念
仏教において服喪とは故人の死を悼み、成仏できるように供養に励む期間を指します。
しかし、神道において故人は「仏に成る」のではなく、守護神となって子孫を見守るようになると考えられています。
したがって、神道では成仏の儀式ではなく、神様の仲間入りをして守り神になってもらうためのお祭りを行うわけです。
ただ、亡くなったばかりの御霊は荒々しいのでまずこれを鎮めなければなりません。
また、遺族は親しい人を亡くしたショックで気枯れを起こしています。そのため、服喪の期間を設けてひとまずそれらを祭るのです。
荒ぶる御霊も時が過ぎればやがては穏やかな守護霊に姿を変えていきますが、それまでは結婚式や新年会といった祝い事は控えることになります。
一方、神社を訪れるのは、忌中の間は死の穢れを運んでくるために禁忌とされているものの、その期間を過ぎれば普通にお参りをしても問題はありません。ちなみに、忌中とは故人がなくなってから50日間を指します。
ただし、初詣などのお祝いムードの強い参拝については、やはり服喪の期間が終了するまで控えるべきでしょう。
以上のように、神道における服喪について知るためには根底となっている考え方が仏教とは異なっているのだということを理解する必要があります。
服喪期間とそれぞれのマナー
神道では葬儀の当日を葬場祭、その翌日を翌日祭と呼びます。そして、翌日祭から本格的な服喪期間に入るのです。
まず、翌日祭では自宅に置いてある霊璽やお墓の前に立ち、無事葬儀が終わったことを報告します。
次に、仏教の初七日に当たる十日祭です。十日祭は親族や友人たちを招くのが一般的です。遺影や故人の思い出の品を祭壇に飾り、神主に祝詞奏上をしてもらいます。
その後、仏教では焼香を行うことになりますが、神道ではそれに代わって玉串奉奠が行われます。玉串奉奠とは紙垂や麻を結びつけた木の枝を神前に捧げる儀式です。
それが終わると、故人を偲びながら会食を行います。
十日祭が終了すると、続いて二十日祭、三十日祭、四十日祭、五十日祭と10日ごとに祭儀を執り行うことになります。
ただ、二十日祭から四十日祭に関しては現代では省略しているところがほとんどです。もし執り行うとしても親族だけのささやかなものになります。
それに対して、より重要度が高いのが五十日祭です。仏教における四十九日に相当するもので、清祓いの儀や合祀祭などが行われます。
清祓いは神棚や祖霊舎に貼ってある白紙をはがす儀式であり、合祀祭とは霊璽や御霊舎を祖霊舎に移す儀式です。祖霊舎に祀られた故人の霊はそこで祖先の霊と合祀されて家の守護神になるといわれています。
以上の儀式を無事終了させることで忌明けとなり、穢れが祓われて神社への参拝などにも行けるようになるわけです。
五十日祭の後は10日ごとの祭儀は終了となり、次は故人の死後100日目に行う百日祭です。
百日祭は遺族のみが集まって自宅か墓前で行われるのが一般的であり、現在では百日祭そのものを省略してしまう場合も少なくありません。
その次は故人の初めての命日となる一年祭ですが、これは五十日祭と並んで大切な儀式です。
五十日祭同様に、遺族や親族を集めて大々的に執り行い、この行事の終了をもって喪明けとなります。
それからも、二年祭、三年祭、五年祭、十年祭と続き、以後は10年刻みで二十年祭、三十年祭、四十年祭、五十年祭となります。
最後に百年祭というのもあるのですが、さすがに、そこまで続けることができる家はごくわずかです。
そのため、五十年祭を御霊の格が上がる重要な儀式として位置付け、それで一応の終了としているのですが、実際問題50年続けるのもかなり厳しいものがあります。
大多数の家では三十年祭が限界だというのが実際のところでしょう。
最低限の知識を備えておこう
神道における法事とは霊前祭や御霊祭のことを指し、それを完璧にやり遂げようとすれば大変な手間と年月が必要となってしまいます。そのため、現代ではそれらの儀式を厳密に行っているところはごくわずかです。昔と比べれば大幅に簡略化されているというのが実際のところでしょう。
しかし、いくら時代と共に儀式に対する姿勢が柔軟になっているといっても、全く何も知らなければ対応自体が不可能になってしまいます。そうなると、いざ神道での儀式を行うことになった際に恥をかくことにもなりかねません。
それに、故人をしっかりと弔う意味でも最低限のマナーは身につけておきたいものです。
神道における儀式の基礎知識について学び、もしものときに困らないようにしておきましょう。